孤独が嫌い
  独りは嫌






  A family tie 暖かいもの






  「千紗、朝です」
  「うぇ・・・?」

  千紗は聞きなれない声に目がさめた。
  いつも独りだったから起こしてくれる人がいなかった。
  目をこすって声のほうを見れば、翠が立っていた。
  否、浮かんでいた。

  「翠・・・、おはよう」
  「おはようございます」

  にこっと微笑んで手元においてある紺色のローブを掴んだ、はずだった。
  首をかしげると奥からトテトテとあるく音が聞こえてくる。
  音の方に顔を向ければ、凛がローブを持っていた。

  「おはよ、千紗。山葵がローブにアイロンかけてたよ」
  「おはよう、凛。あら、そうなの?ありがとう」

  可愛らしくにこっと笑う凛の頭を撫でる。
  ローブを着てリビングに行くと、朝食が用意されていた。

  「おはようございます、千紗さん。朝ごはんできてますよ」
  「おはー、山葵。ありがとう」

  席につくと、翠が椛と洸を引き連れてリビングに入ってきた。
  眠そうに目をこすりながらテーブルにつく。

  「千紗だー、おはよう」
  「おはよう、椛」

  燃えるような紅い髪がぐしゃぐしゃだ。
  隣でのんびりと声がする。

  「千紗ー、おはよー」
  「おはよう、洸」

  千紗が微笑んで、皆で朝食を食べ始めた。






  朝食を食べ終わって、自室に本を読みに行く。
  でも、なんだか自室が寂しく思えて、本を掴むとリビングへ向かった。
  そこでは五人の精霊たちがくつろいでいた。
  翠はフヨフヨ浮いたまま洸とゲームをしている。
  山葵はお皿を洗っていて、凛はお手伝い。
  椛は眠かったようでソファーに座ってうとうとしていた。
  そんな何気ない光景に千紗は安心したように微笑むと椛の寝ているソファーに腰掛けた。

  「ぉょ・・・?」
  「起こしちゃった?寝てていいよ」

  そう言えば、椛は嬉しそうに頷くと千紗の膝に頭を置いた。
  膝枕をしてほしいらしい。

  「だめ・・・?」

  下から上目遣いで見上げてくる椛に千紗は微笑む。
  それに満足したように椛は眠りにつく。
  寝顔を眺め、紅い髪を撫でる。
  ふと、思い出したように本を開いた。






  しばらく読みふけっていると山葵の遠慮がちな声が。

  「あの、洗濯物は・・・」
  「ぁ、適当に庭にでも」

  わかりました、と山葵は凛と一緒に庭に向かう。
  凛はお手伝いが出来ることが嬉しいようで、ずっと笑顔だ。
  横を見れば、翠と洸がまだゲームをしていた。
  どうやら、ファミリー向けのゲームのようである。
  翠はあまりしゃべる方ではないが、洸とは仲が良いようだ。
  洸の適当な性格にはちょうどいい。

  「千紗もやるー?」

  前触れもなく急に振り返った。
  千紗は一瞬驚いた顔をして、すぐに頷く。

  「うん、やる!」

  ゲームをしたことがない千紗にとっては未知の世界だった。
  歩いたり、ジャンプしたり。
  そんな基本動作ですら千紗にとっては大変神経を使うものだった。
  翠は千紗の様子に小さく笑いを漏らし、洸は声をあげて笑った。

  「千紗、そこはAボタン」
  「ぁ、そうなの?」
  「そこはBだよー」
  「むっ」

  翠と洸にアドバイスをされ、ようやくプレーできるまでになった。
  もともと記憶力はいい方な千紗はあっという間に操作を覚えた。

  「よし、やるかっー」

  三人でゲームを開始。
  最初のうちは負けっぱなしの千紗だったが、慣れてくるとたびたび勝つ様になってきた。
  そのうち楽しくなってきて、千紗は思わず立ち上がった。

  ゴンッ

  その音に千紗ははっとしたように下を見た。
  椛が落ちていた。

  「ど、どうしよ、椛大丈夫・・・?」
  「気にすることはない、椛は起きない」
  「そうそうー」

  言葉どおり、椛は眠り続けていた。
  図太い。
  千紗は指を回して、魔法を発動させると椛をソファーに寝かせる。
  毛布を引き寄せて、かけてやる。
  椛の頬をツンと指で突っついて、にこっと笑う。

  「椛、可愛い」

  洸は千紗の頭に手を撫でた。
  不思議そうに見上げる。

  「千紗は独りじゃないさー」
  「もう、俺たちがいる」

  きょとん、としつつ瞬きを繰り返す。
  ようやく言葉を飲み込んだ千紗は嬉しそうに微笑んだ。






  もう、私は独りじゃない
  精霊たちがいる
  私は本当に感謝してるよ
  ありがとう