大切な人
 その人とならどこへでもいける気がするね





 A family tie Memory of the past Ver.S





 太陽の光も心地よくなり、花の匂いが香る頃。
 翠はいつものようにフヨフヨと浮かび、日向ぼっこをしていた。
 春の日差しがとても心地よいのだ。
 ポカポカポカポカ。
 そんな暖かな空気を風が翠に運んでくれる。
 そっと目を瞑ると力を抜き、浮遊状態になった。
 力を抜くと全く疲れることはなく、翠の意思とは関係なく浮いている。
 翠はいつのまにか眠りについていた。






 まだまだ翠が幼かった頃。
 水の精霊たちと一緒に過ごしていた。
 翠は他の精霊たちに比べ能力が高く、大人たちに高い評価を得ていた。
 その反面、子供たちからは苛める対象となっていた。
 何もかも失敗せずにこなしてしまう翠が羨ましく、そして憎かったからだ。
 最初は軽い悪戯だった。
 翠の道具を隠したり、蛙を入れたり。
 それをみても全く動じない翠にだんだん悪戯はエスカレートしていった。
 落書きをしたり、翠にわざとぶつかったり。
 それでもいつも翠は表情を崩すことはなかった。
 何も気にしてない、そんなことでは傷つかない、と言っているようだった。
 翠は表情をあまりださない子だからこそ、子供たちにはそう見えたのだ。
 そう見えるのは表面上だけ。少なからず翠は傷ついていた。
 ついに翠は心に大きな傷を負い、そして他人に対して心を開かなくなってしまった。
 誰が話し掛けても無反応。瞳に、光が灯っていなかった。
 子供たちは翠に謝りに行った。
 そうなってしまった翠に、責任を感じたからだ。
 謝っても翠の瞳に光が灯ることは無かった。
 そのとき、子供たちは初めて翠が傷ついていたことを知る。
 そして、毎日のように必死にお見舞いに通っていた。
 でも、翠の瞳には光が灯らない。



 子供たちがいつものように翠の元へ行くと、一人の女の子がいた。
 女の子という雰囲気ではなく、女の人という雰囲気でもなく。
 彼女は翠の頭を優しく撫でていた。
 何かを呟きながら、優しく優しく。
 じーっと見ていると彼女は急に振り向くと、子供たちに微笑みかけた。
 その微笑みは何か、哀しさを感じさせるものだった。

 「貴方は誰・・・?」
 「さぁ?誰だと思う?」

 子供たちの質問に彼女は質問で返した。
 お互いに顔を見合わせて首をかしげる。

 「わからない、よね。私は・・・」

 彼女の言葉はそこでとまった。
 視線は翠の方に向けられている。

 「ぁ・・・!」

 視線の先には翠がいた。
 それは当たり前のことだが、何かが違っていた。
 翠の瞳に光が灯っていた。

 「お目覚めいかが?」
 「貴方が、千紗・・・?」

 その問いかけに彼女、千紗は微笑み返すと翠の腕を引いて抱きしめた。
 そして、ぽんぽんと背中を優しく叩く。

 「貴方は翠以外の何者でもないの」
 「・・・・・・」
 「私には貴方が必要なの」
 「・・・・・・」

 子供たちは黙って見守る。
 翠と千紗の光景を。
 何か邪魔をしてはいけないものを感じたからだ。

 「私とともに来てくれる・・・?」
 「・・・千紗が望むなら、どこまでも」

 千紗は立ち上がると翠の額に手を翳した。
 その手に薄い青色の光が灯る。
 そして、その光が収まる頃には翠の額に小さな花が刻まれていた。

 「これで、貴方は私のお友達」
 「・・・お友達ですか」

 嬉しそうに微笑む千紗に翠は首をかしげる。

 「そう、お友達!」

 眩しいほどの笑顔に翠もつられて微笑み返す。

 「翠・・・」

 後ろで自分を呼ぶ声がした。
 翠は振り返ると、子供たちの姿を認識した。

 「翠、ごめんな。俺たちの制で・・・。反省してる」
 「・・・気にしなくていい。俺は・・・、気にしてないから」

 その言葉が嘘だとは子供たちも分かっていた。
 だけど、翠が許そうとしていたのが分かったから。
 子供たちは嬉しそうに笑って、翠に手を差し伸べる。

 「・・・?」
 「仲直りの印だよ」

 千紗が翠の手と子供の手をとって握手をさせる。

 「さてと、翠。行こう」
 「わかってる」

 翠は子供たちに向き直ると頭を下げた。
 その動作に困惑する。

 「毎日、来てくれて、ありがとう。さよなら」
 「翠・・・」

 千紗は翠に手を差し伸べて、翠はその手をとった。
 不思議な光景が見える。
 金色の光が二人を包んでいた。

 「翠・・・!俺たち、いつまでも友達だから!」
 「待ってるから、いつでも帰っておいでね!」

 子供たちの言葉が翠に向けられる。
 翠は嬉しそうに笑うと、小さく呟いた。

 「ありがとう」






 「・・・い、・・・翠!」

 自分を呼ぶ声で目が覚めた。
 その声は自分の大切な人の声。

 「千紗・・・」
 「もう、翠ってば珍しいのね。こんなところで寝ちゃうなんて」

 千紗がおかしそうに笑う。
 翠は千紗の頭に手を伸ばすと、優しく撫でてやる。

 「・・・翠?」
 「いや、なんでもない。ちょっと夢をみた」

 珍しく翠は地面に足をついている。
 千紗より、小さい、男の子だ。

 「いい夢だった?」
 「あぁ、いい夢だった」

 滅多に見ることの出来ない翠の円満の微笑みに千紗は驚く。

 「翠」
 「ん?」

 悪戯っ子のような笑みを浮かべると千紗は言う。

 「今度、翠の故郷に行ってみようか」
 「!」

 千紗が笑った。

 「翠のお友達に逢いに行こうよ、きっと待ってるよ」

 一呼吸置いて、答える。

 「あぁ」






 過去は変えられないけれど
 貴方と一緒なら どこまでも行ける気がするよ
 どんな思い出でも
 貴方がいれば 素敵な思い出