桜咲く頃に 貴方は現れて
桜散る頃に 貴方は消えた
桜の木のさくら
「ぅーん、暇だなぁ」
春休みに入って、何もすることがない。
皆と遊ぶのも良いけど、庭でのんびりするもの好き。
日向ぼっこはもちろん縁側で。
縁側に横になると太陽の光を身体中に感じる。
ぽかぽかぽかぽか。
気持ちいい。
暇なことはいいことだ。
僕にとって暇なことは退屈なことでしかないけれど。
ふと、小鳥の声に耳を傾けた。
少しだけ、嬉しそうに鳴いているように感じる。
起き上がってみてみれば、ピンクの木が見えた。
「桜・・・!」
僕は桜が好き。
お母さんが好きだった木だから。
お母さんと同じ名前の木だから。
もう、逢えないけれど。
靴を履いて、桜の木に向かって走る走る。
この時期の楽しみは桜を見ることだから。
お母さんに逢いに行くことだから。
桜の木の前で、止まると女の子が幹に寄りかかっていた。
「・・・さくら」
「また、逢えたね」
そう言って、さくらは微笑んだ。
僕とさくらが出逢ったのは去年の今ごろ。
お母さんがお空に行って、一週間たった頃。
哀しみに浸っている僕をお父さんが外へと連れ出してくれたときだ。
幹に寄りかかっている女の子を見つけた。
その子がさくらだった。
不思議なことにお父さんにはさくらは見えていなかった。
次の日、僕は逢いに行った。
何か、不思議なものを感じたから。
「・・・君は誰?」
「やっぱり、貴方には見えるのね、柚子」
何故か僕の名前を知っていた。
思わず顔を顰めた。
「私はさくら。この木に住んでいるの」
さくらはふわりと笑った。
その笑顔がお母さんにそっくりで。
「・・・おかあ・・・さん?」
「私は貴方のお母さんの魂を受け継いだの」
よく分からないけれど、さくらはお母さんらしい。
さくらは楽しそうに僕に話をしてくれた。
僕もさくらの話を聞くことはとても楽しかった。
でも、時々哀しそうな顔をしているときがあった。
僕にはわからなかったけれど。
そして、桜が散る頃。
「またね、柚子」
そしてさくらは消えた。
「柚子?」
さくらの言葉ではっ、と我に返った。
去年のまま、さくらは佇んでいた。
「ほんとにさくら?」
「うん、さくらよ」
そう言って、微笑む。
その微笑みは全く同じで。
嬉しくなって微笑んだ。
「柚子には私が見えてて嬉しいな」
「僕もさくらが見えて嬉しいよ」
一年振りに逢ったのに、僕とさくらは飽きることなく話を続けた。
さくらと話しているとお母さんと話しているみたいで好きだ。
もちろん、さくらはお母さんと違う。
でも、雰囲気が似てる。
そして、微笑みも。
僕はさくらに心を救われていた。
「柚子、大きくなったね」
「さくらが小さくなったんだよ」
そう言うと、さくらは悲しそうに首を横に振った。
「私は成長しないから、ずっと、このままなの」
「ぇ・・・?」
僕の驚いた声にさくらは目を細めた。
「私はこの桜の木に住んでいるの。だから、このまま」
僕にはよく意味がわからなかったけど、さくらは微笑んでいるだけだった。
僕は毎日のようにさくらの元に通った。
さくらと逢えるのはほんの数日。
僕はさくらといる時間が好きだから、ずっと一緒にいたかった。
そしてさくらに伝えたいことがあった。
さくらが哀しそな顔をする理由がわかったから。
中々言い出せなかったけれど。
絶対、言うと決めた。
でも、桜の散る日はやってきて。
「柚子、お別れだね」
「・・・うん」
泣きそうな顔をしているであろう僕の髪をさくらはくしゃりと撫でた。
「そんな顔しないで、また逢えるから」
「さくら」
「うん?」
ぎゅっと手を握って、僕はさくらを見つめる。
この目に焼き付けるように。
ずっと、忘れないように。
「僕はさくらのことさくらとしてちゃんとみてるよ」
「柚子・・・?」
さくらは目を開いて驚いたように僕を見つめる。
僕は申し訳なさそうな顔になっているだろうな。
「お母さんじゃなくて、さくらはさくらだから」
「柚子・・・、ありがとう」
さくらは目に涙を浮かべて、微笑んでいた。
そして、僕の前から姿を消した。
「さくら、ありがとう」
散っていく桜を目に僕は呟いた。
桜咲く頃に さくらはやってくる
桜散る頃に さくらは帰っていく
そしてまた 桜咲く頃に
「また逢えたね、柚子」
*桜でさくら。
久しぶりに長めの小説かな。
ずっとやってみたかった内容なのです。
さくらは柚子にさくらとしてみて欲しかっただけ。
柚子はさくらにお母さんを求めていたのです。
柚子は生長してさくらをさくらとしてみることができるようになった、という話。
相変わらず題名が怪しい・・・。